がん分子標的治療薬情報

 

水上民夫(フロンティアファーマ代表取締役社長、長浜バイオ大学名誉・客員教授)が、日本がん分子標的治療学会News Letter2010年以降毎号執筆してきた、世界と日本で承認されたがん分子標的治療薬一覧の記事を、日本がん分子標的治療学会から掲載の許可を得て公開しています。

 

1980年代のヒトがん遺伝子やがん抑制遺伝子の発見により、がんが遺伝子疾患であることが証明され、それ以来これらの遺伝子の産物を標的とした抗がん剤の創薬が活発に進められてきました。1997年以降、その成果として、がん遺伝子産物をターゲットとする分子標的治療薬が多数登場しました。

さらにがん遺伝子産物以外でも、エピジェネティクス、タンパク質修飾・分解・フォールディング、シグナル伝達、細胞周期、アポトーシスなど、がん生物学の貢献により解明された多様な発がん機構の鍵となる分子標的に対して、多数のがん分子標的治療薬が承認されています。

また2014年に最初の免疫チェックポイント阻害薬であるNivolumabが承認され、さらに2017年にはCAR-T細胞療法薬が承認されるなど、最近のがん免疫療法の成果には目を見張るものがあります。

 

現在日米で、総計176種のがん分子標的治療薬が承認されています(2024712日時点)。調査結果を最初に報告した201096日時点では21種の薬剤が承認されていたことから、以降平均すると年間10剤を超えるペースで承認薬が増加していることがわかります。

今や分子標的薬剤のファミリーは、抗がん剤の世界において、DNA作用薬、チューブリン作用薬、代謝拮抗剤などのクラシカルな化学療法剤ファミリーをはるかに凌ぐまでに成長しています。

 

本一覧には、これまでに日米で承認されているがん分子標的治療薬について、一般名/商品名、モダリティー、標的分子、適応がん種、承認年の情報をまとめました。

本一覧にある176剤をモダリティーで分類すると、107剤が低分子医薬品(1剤のタンパク質結合タイプを含む)、1剤が核酸医薬品、60剤が抗体医薬品、1剤が血管内皮細胞増殖因子 (VEGF)受容体/IgG抗体Fc融合タンパク質、1剤が可溶性T細胞受容体、6剤がCAR-T細胞療法薬となります。

なお本一覧には、タンパク質・ペプチド医薬品(抗体分子を含む医薬品を除く)、遺伝子治療用医薬品(CAR-T, TCR-Tを除く)、腫瘍溶解性ウイルス療法剤、内分泌療法剤、全トランス型レチノイン酸(ATRA)などのビタミンA誘導体、サリドマイド系薬剤、有機ヒ素系薬剤、がん悪液質治療薬、放射性リガンド治療薬は含まれていません。またバイオシミラー、剤型変更薬も含まれていません。

 

本調査記事が、創薬や細胞医療の研究・開発に関わっておられる方々、興味を持っていただける皆様のお役にたてることを願っています。

 

最新記事

バックナンバー